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2011. 03.16 更新



「中国革命」の現代史的意味
-----日本との関係における両国のトラウマについて

恥ずべき「文化遺産」のひとつ『皇軍必携 實用支那語』(筆者所有)

 

 本メディアを通じて、過去四回に分けて、国民党を含む「中国革命」の成果について、私なりの評価と、台湾の女流作家の目に映った、過去数十年にわたる台湾と中国大陸の政治、経済的動向と相関性について紹介した。
  今回は、日本の政治経済動向についての私の体験的見解を踏まえながら、「中国革命」が、中国大陸と台湾、および日本に及ぼした影響とその意味あいについて、要点に絞って考察してみたい。

 、「中国革命」は、中国の長い歴史において繰り返された、「王朝交代」を目指す政治的運動の総体である。「革命」を担った主役は、歴代の多くの「王朝交代」の場合と同じく、秀でた指導者に率いられた農民たちであった。また近現代の「中国革命」の過程においては、国民の大部分を占めた農民の貧窮や外国による蹂躙など、国内的諸要因とともに、イギリス、ロシア、日本、アメリカなどの諸外国(列強)の圧迫という要因が大きく作用した点に際立った特徴がみられた。とりわけ、毛沢東も指摘したように、日本が中国を侵略したことによって、中国人の民族主義に火をつけた。歴史の皮肉としかいいようがないが、結果的に、共産党を政権の座に着かせることを後押しするという役割を果たした。また、一九四九年以降、中国は、「大躍進」政策、「人民公社」、あるいは「文革」などに垣間みられるように「原始共産主義社会」を目指したかのような時期もあったが、一九八〇年代以降は「毛沢東路線」を放棄し、市場・資本主義を通じて経済発展をはかるという「ケ小平路線」に転換し、推進している。このようなケ小平による「社会主義の冠をかぶった資本主義」路線こそは、日本をはじめとする先進諸国による経済発展の実績から学んだところに出発点があるとみることができる。したがってある意味では、「現代中国は、日本によって作られた」といっても過言ではあるまい。

 、「中国革命」を理論的に支えた「毛沢東思想」は、要するに、「中華民族の復興」を目指して、成功した実践マニュアルである。その特徴は、もっぱら「武力」の重視である。また、その内実は、明治維新を経て「富国強兵」を進めた日本の国策と酷似している。今日、中国は、過去三十年にわたり、かつての日本を真似るかのような「奇跡的な経済発展」(富国)を遂げ、それを背景にして、ますます「強兵」に向かう道を突進しているようにみえる。中国にとっては不服かもしれないが、その動きが日本をはじめ周辺諸国に「脅威」として受け取られているのが否めない現実である。

 、「中国革命」は、かつて半植民地化し、疲弊、分裂、列強による蹂躙という屈辱にあった中国を統一し、立て直し、発展の糸口をつかんだという点においては十分な成果をあげたといえる。国内外の中国人は、この点では一致して、〈中華の再興・隆盛〉を歓迎している。国内外の中国人には、それぞれ受益の程度によって、さまざまにちがった意識形態がみられ、また、内部矛盾も噴出しているが、〈中華の復興や発展〉については、中国人は「挙国一致」しているといえる。数千年に及ぶ〈中華思想〉は、いまのところ中国の不朽、不動のバックボーンとなっている。
  他方、国民党は、党是として、孫文が成しえなかった「ブルジョア民主主義革命」を目指し、「救世・復興運動」という点においては、共産党と同じ目的を抱き、三度にわたる「国共合作」を行い「抗日統一戦線」を形成した。両党が、心臓や血管を共有する「シャム双生児」といわれるゆえんである。
  その後、共産党に敗れた国民党は、台湾に逃れたが、四十年近くの間、台湾を独裁、強権的体制のもとに統治した。ところが、「開発独裁」によって、国民党は、台湾の目覚ましい経済発展をもたらし、独裁者蒋介石の息子、蒋経国の時代から、主として台湾人勢力たる民進党の政治参加を認めるなどによって、徐々に議会制民主主義の二大政党制に軟着陸した。このような国民党と民進党による成果は、みようによっては、中国大陸における「革命」の実績よりもはるかに大きな意味をもち、政治文化とともに大陸の先を進んでいると評価してよいだろう(八九年の天安門事件の直前に、中国の民主化運動に同情を示した胡耀邦共産党主席も同じような評価を下していた)。
  作家の陳若曦は、「文革」期の中国を含めて世界各地に「青い鳥」を捜して漂流した。しかし、結局、台湾に戻り、「青い鳥は台湾にいた」と証言している。その発言の有力な根拠には、台湾の政治、経済両面での大きな成果にもとづく、中国語文化圏における初の欧米型の「民主化」の成果があったといえよう。

 、近代においては、日本も中国と同じく、欧米列強諸国によるアジア進出の脅威に直面した。しかし、日本は、明治維新という一種の「復古革命」を経て、いちども外国の支配を受けずに、いちはやく、近代化に成功した。その成功を背景にして、軍部にコントロールされた日本は、朝鮮半島、カラフト南部と「満州」を含む中國へ進出を図った。その結果、米国との確執を生み、日本は米中をはじめとする多くの諸国と戦うことになった。このようにして多方面を敵とした日本は、当然の帰結として、米中を含む「連合国」に敗れ、占領された。その後、日本は事実上、米国の支配と支援のもとに、一連の「民主化改革」を行うとともに、「世界の奇跡」ともいわれる目覚ましい経済発展を遂げた。しかし、九十年以降、その成熟に必然的にともなう宿命のように、日本経済は次第に伸び悩み、停滞する兆候が顕著になってきている。「盛者必衰」の四文字を思わせる。

 、現在の中国の状況に関連していえば、中国は、毛沢東支配の末期のころから、民衆による民主化を求める運動が二度にわたり露出したものの、いずれも民主化の結実には至らなかった。しかし、近年、中国には、過去三十数年来の経済発展の結果、「富裕層」と「中産階級層」の形成とその層を中心とする人びとに意識の覚醒がみられる。これにともなって、新たに、民主化を求める運動が高まる兆しが散見される。また、最近の中東の民主化への動きが、ドミノ現象として世界的な潮流となり、中国情勢にも影響を及ぼしはじめている。
  この結果、前述のとおり、すでに民主化の面で実績をあげた「台湾」との統一に向けて「両岸交渉」に臨むべき中国政権としては、政権を維持しつつ、今後いかに国内の民主化のレベルを台湾と同じレベルにまで引きあげて、「台湾との共存ないし統一」をはかるかが、大きな、重い課題となりはじめている。他方、今後、台湾と中国との関係の帰趨は、かつて台湾が日本の植民地であっただけに、日中間の新たな緊張要因になりうる可能性を秘めている。

 、現在の日本にとって、「中国革命」の意味あいは、いわば「日本が作った中国」をいかに受けとめるかにかかっている。一部の勢力によって明らかにあおられている「中国脅威論」は、日本人が戦後、忘れていたナショナリズムを覚醒させている面があり、この日中双方の民族意識の衝突が両国関係にもあらたなレベルの緊張をもたらしはじめている。
  日本と中国は、長い交流の歴史を通じて、一時期を除き友好的につきあってきた。歴史的にみると、日本は、中国の知的遺産を摂取し、それに改良を加えながら、独自の文化を発展させることができた。しかし、近代においては、日本の近代化にともなう中国へ進出の結果、日本は中国にとって最大の「脅威」となってきた。かつては弱体であったがゆえに、日本が蹂躙した、その中国が今日、軍事力を含む国力を充実した結果、中国は日本にとって「新たな脅威」として立ちはだかっているようにみえる。このような状況が多くの日本人にとってトラウマとなっている。その背景には、近年の日本の国力衰退の兆しにともなう、日本人の自信喪失がある。つまり、かつて日本は中国に対して「強者の論理」を適用していたが、いまや中国に対して「弱者の論理」で臨んでいるのだ。「中国問題」は、日本側の「認識、記憶に絡む問題」でもあるゆえんである。

 、今後、日本にとっては、このような「対中トラウマ」を解消しつつ、自信と余裕を回復して、隣国中国との安定的な関係を構築していくことが、喫緊の課題である。しかしながら、日本においては、日中双方間に存在する相手に対するトラウマについての観点が欠落している。それは、日中戦争の当時や戦後の東西冷戦構造の時代に、中国の側から、日本や世界をみれば、どのように映ったかという観点でもある。中国の防衛意識の強烈さには、同意するか否かにかかわらず、歴史に根差した業とさえいえるものがある。
  中国人の意識では、数十年前までは、北の「ソ連社会帝国主義」、東の「日米(軍事)同盟」、南の「反中国」諸国(旧アセアン)に包囲されてきたのである。その中国が「富国」化にともなって、それにふさわしい「強兵」をもくろんだとしても、たとえそれが多少は過剰なものであったとしても、それが中国のトラウマによることを、理解する必要があるのではないかと私は考える。かつて中国にトラウマをもたらした日本が、いまや中国側のトラウマに感染されることなく、先頭になって、これを少しずつ和らげていくことこそ、賢い外交であろう。「中国脅威論」を声高に叫び、「日・米・韓の軍事同盟深化」のような国策を「挙国一致」、「国民的合意」的に唱えるかぎり、真の意味での「日中友好関係」は完結しないのである。日中関係を健全な状態にするには、まず、双方がこのような精神疾患的なトラウマの連鎖を断ち切ることからはじめなければならない。
                                                                                     (2011.3.15)

 

 

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